湿疹(皮膚炎)は、一般的に乳幼児や子どもに見られる皮膚疾患です。しかし、高齢者がこの病気にかかることも珍しくありません。高齢者においては、湿疹の合併症のリスクは高まるのでしょうか?

湿疹とは
湿疹 は、皮膚の炎症を特徴とする皮膚疾患です。多くの場合、唇や目の周りを除く顔部分に発症しますが、膝や肘など体の他の部位に生じることもあります。湿疹にはいくつかの 症状 があり、赤く腫れた斑点に小さな水疱ができる、皮膚の極度な乾燥、強いかゆみなどが挙げられます。これらの症状は、生活の質を低下させ、精神的・身体的健康の両方に影響を及ぼすことがあります。
湿疹にはいくつかの種類があります。その中でも最も一般的なものの一つがアトピー性皮膚炎で、これは特定の遺伝的素因によるものです。アトピー性皮膚炎の人は、皮膚のバリア機能が本来の機能を果たさなくなり、 角質層の透過性が高まっているのが特徴です。これにより、水分が失われやすくなり、微生物やアレルゲンが皮膚に侵入しやすくなります。また、遺伝的素因がなくても湿疹にかかることはあります。その場合は、環境中の特定のアレルゲンに対する反応として起こる接触皮膚炎と考えられます。
高齢者における湿疹の有病率は?
湿疹は年齢に関係なく発症しますが、一般的に子どもに比べて大人の方が湿疹の有病率はかなり低い傾向にあります。高齢者に関しては 、60歳以上の有病率は10%未満とかなり低いですが、 ゼロではありません。このことは、一見すると直感に反するように思えるかもしれません。というのも、加齢に伴い、皮脂や天然保湿因子(FNH)といった保湿成分が減少し、それにより皮膚バリアが弱まるからです。これらの成分は、皮膚表面の皮脂膜を維持し、乾燥や外的刺激から皮膚を保護する役割を担っています。
その結果、高齢者の皮膚はより乾燥しやすく、弾力が失われ、薄くなります。このような脆弱性は、刺激やかゆみに対する感受性を高めます。 それにもかかわらず、高齢者の湿疹の有病率は低くとどまっています。これにはいくつかの理由があります。まず、アトピー性皮膚炎のような湿疹の一部は、年齢とともに改善または自然消失する傾向があることが観察されていますが、そのメカニズムは完全には解明されていません。さらに、湿疹の引き金となる環境要因が、高齢者の生活の中では少なくなっていることも一因です。例えば職業性アレルゲンなどが挙げられます。これらの要素が、高齢者における湿疹の有病率が低い理由を部分的に説明しています。
高齢者にとって湿疹はより危険か?
湿疹は 感染症ではなく、たとえ不快であっても一般的には危険な病気とは考えられていません。しかし、場合によっては湿疹が全身に広がったり、感染したりすることがあります。そのような場合には、速やかな医療対応が必要です。高齢者において湿疹が悪化する割合が特に高いわけではありませんが、 その結果としての影響はより深刻になることが多いです。
実際、加齢に伴い炎症反応に変化することが知られており、「炎症性加齢(インフラメイジング)」と呼ばれる慢性的な炎症症状態が生じやすくなります。これは、「inflammation(炎症)」と「aging(老化)」を組み合わせた造語です。年齢を重ねるにつれて免疫機能が低下し、サイトカインと呼ばれる炎症性物質が持続的に産生されるようになります。これが、湿疹の症状を悪化させる原因となることがあります。
さらに、高齢者の湿疹ではうっ滞性皮膚炎.(湿疹性静脈瘤)と呼ばれるタイプがしばしば見られます。 これは下肢に現れる湿疹で、静脈還流がうまくいかないことによって生じます。血液が心臓に戻る際の流れが滞る、いわゆる「静脈うっ滞」が原因です。この静脈うっ滞は、特に運動不足などの生活習慣によって助長されます。そして年齢とともに、活動量が減っていく傾向があるため、高齢者においてはこのタイプの湿疹が発生しやすくなるのです。
まとめ : 高齢者は身体的に脆弱であり、適切なケアを必要とします。湿疹の発症率自体はそれほど高くないとはいえ、油断は禁物です。もし気になる症状や疑問がある場合には、医師に相談することが重要です。
出典
BORRADORI L. & al. Prurit du sujet âgé. Revue Médicale Suisse (2004).
GOLDENBERG G. & al. Eczema. The Mount Sinai Journal of Medicine (2011).
BORRADORI L. & al. Dermatologie et infections sexuellement transmissibles. Elsevier Masson (2017).
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