すべての肌色は湿疹の影響を受ける可能性がありますが、色白の肌と色黒の肌とではこの皮膚疾患の症状の現れ方に違いがあります。ここでは、濃い肌(黒い肌)における湿疹の症状の見分け方についてご紹介します。

湿疹とは?その原因は?
湿疹 は皮膚の炎症性疾患であり、年齢や肌の色にかかわらず誰にでも発症し得ます。症状としては 赤い斑点や小さな水ぶくれ、鱗屑(フケのようなもの)が観察されます。肌はざらつき、やがてかさぶたや浸出液を伴うこともあります。これらに加え、 かゆみが現れることが多く、慢性的に症状が悪化する「発作期」と症状が改善する「寛解期」を繰り返します。いくつかのタイプがある湿疹ですが、中でも最も一般的なのはアトピー性皮膚炎と接触皮膚炎です。
アトピー性皮膚炎
アトピー性湿疹は遺伝的素因によって引き起こされる皮膚疾患であり、皮膚バリアが弱く、アレルゲンが皮膚を通過しやすくなり、免疫反応が過剰に起きるのが特徴です。例えば、動物の毛や花粉、ハウスダストなどの一般的なアレルゲンに触れることで炎症反応を引き起こします。
接触性皮膚炎
接触皮膚炎は特定のアレルゲン物質と皮膚が接触すると発症する皮膚疾患です。 主なアレルゲン源には衣類、化粧品、外用薬剤、職場での刺激物(セメント、塗料、農薬、手袋など)があります。接触皮膚炎の症状はアトピー性皮膚炎と似ていますが、原因が明確で、遺伝的要因とは関係がありません。
黒い肌における湿疹の症状とは
一般には湿疹 の症状は肌の色にかかわらず同じですが、これは厳密には正しくありません。かゆみ、水ぶくれ、鱗屑などは確かにすべての肌で共通しますが、 皮膚の色が異なる点に注意が必要です。色素の濃い肌では真皮の炎症が黒っぽい茶色や灰色がかった色として現れるため、周囲の肌よりも濃く見えることが多いです。特に皮膚が厚くごわつく苔癬化の段階では、この濃い色合いがより目立ちます。
さらに、湿疹の痕として治癒後に 茶色いシミが残ることがあり、これは掻きむしりによって悪化します。黒い肌の場合、皮膚の炎症によりプロ炎症性サイトカイン(IL‑1、TNF‑αなど)が放出されることで、メラニンを産生する表皮基底層のメラノサイトが活性化します。黒い肌特有の濃いメラニン(ユーメラニン)の産生が、より顕著な色素沈着を引き起こす要因となっています。
また、コルチゾンクリーム(ステロイド外用薬)使用後の色素脱失 を心配する声もありますが、医師の指示に従って患部に1日一回、発作時のみ使用する場合には、そのようなリスクは極めて低いとされています。掻きむしりによる過剰なメラニン産生を考えると、ステロイド治療による炎症抑制の利益の方が一般的には大きいとみなされています。
黒い肌における湿疹の原因は異なる?
湿疹の原因は、基本的には肌の色にかかわらず同じです。この疾患は、皮膚バリアの機能不全や、特定の物質に対するアレルギー反応により発症します。ただし、いくつかの研究では、肌の色によって湿疹の発症率やその原因に違いがあるのでははいかと調査されており、興味深い発見がいくつか報告されています。アメリカの人種別統計によると、湿疹の有病率は肌の色が濃い子どもで約20%、肌の色が明るい子どもで約15%であることが示されています。この差の理由は現時点では解明されていませんが、湿疹にかかわる 遺伝子変異が、肌の色によって必ずしも同じではないことが科学的に示されています。
例えば、遺伝的要因による湿疹は、一般にフィルグリンというタンパク質の遺伝子がうまく機能していないことに起因します。このタンパク質は角質層の構造と、皮膚バリアの維持に重要な役割を果たしています。ところが、湿疹を持つ黒い肌の人々では、このフィラグリン遺伝子の変異が、白い肌の人々に比べて約6倍も少ないことが明らかになっています。その代わりに、黒い肌の湿疹患者では、フィラグリンと似た働きをするフィラグリン2というタンパク質をコードする遺伝子に変異が見られることが多く、このことから、肌の色が違っても湿疹の生物学的なメカニズムはおおむね共通していると考えられています。さらに、黒い肌の湿疹患者では、細胞間の密着結合を制御する「クローディン」というタンパク質を生成する遺伝子に変異があることが、白い肌の人よりも多いこともわかっています。このタンパク質は、細胞間のバリアの密閉性を維持する上で重要な役割を担っています。
結論として、 肌の色による湿疹の原因の違いはごくわずかであり、病気の症状に大きな違いをもたらすものではありません。このような遺伝的差異は、人種間での混血の頻度が比較的低いこと、つまり同じコミュニティ内での遺伝的な隔たりが維持されていることが一因と考えられています。
出典
SAURAT J. H., LACHAPELLE J. M., LIPSKER D., THOMAS L. et BORRADORI L. Dermatologie et infections sexuellement transmissibles. Elsevier Masson (2017).
ALEXIS A. & al. Atopic dermatitis in diverse racial and ethnic groups-Variations in epidemiology, genetics, clinical presentation and treatment. Experimental dermatology (2018).
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